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厨房機器屋オヤジの日記



 
 

 
  【第3回】T 氏 2005/3/30
 
 

 猟に明け暮れておりました父が亡くなったあと数年経ちまして、私の年齢がやっと猟銃の所持許可を得られる
様になり、父と同じ様に猟を始めて現在に至っておりますが、最初は犬が居りませんから一人で猟場を歩いておりました。たまに踏み出しで雉などが獲れるのですが、やはり犬のいない猟は面白くないものです。ところがある日、知り合いのハンターが「おもろい犬を持って張りきっとるオッサンが居るから紹介するわ」と言って次の土曜日にそのオッサンたる人を紹介してくれました。

 張り切っとるオッサンと言われて紹介されたのが年配のT氏でしたが、開口一番「君も犬がないとつまらんやろう、明日ワシと一緒に雉撃ちに行こう」と誘ってくれますので「お供させて頂きます」と約束しまして共猟に及びました。朝一番より猟場で犬を放して始まったのは良いのですが、ショックのあまり開いた口が塞がらない1日となってしまいました。

 当時の猟犬はポインターが多く、セターは少なかったですがT氏の愛犬は当時でも見かける事の少ない大柄の三毛のコマンダー系セターでした。それには吃驚する事はないのですが、驚いたのは狩り込みのランニングとスピードです。それに猟欲の強さやレンジの広さ、はたまたその犬の持っている猟に対する気力でした。レンジとは猟犬が自主的に狩り込む広さの事ですが、これはその犬が頭脳と共に持って生まれたもので、訓練や経験を積ませましても中々フォロー出来るものでは有りません。広いレンジは訓練で縮める事が出来ますが、狭いレンジの犬は中々広く狩る様に仕込むのは難しいのです。

 元来ポインターやセターは広いレンジを誇る猟犬ですから狭い猟場をホームグラウンドとするならば、その様に作られた猟犬を使うべきと思います。例えばドイツ・ポインターやスパニエル系の猟犬です。本来の独ポ(ジャーマン・ショートヘアー)やスパニエル系の猟犬はその為に改良されました猟犬ですからこれらの犬がレンジが広いと規格外ではないかと小生は考えております。反対に狭いレンジしか狩れないポインターやセターはやはり規格外です。しかし独ポやスパニエルを印具されておられる方でも自分の犬はレンジが広いと喜んでいる方もおられますが、きっとそれは心の中では広い猟場をスピーディーに狩る猟犬が美しいものとご理解されてなお、猟欲の強さや持っている気力を時として見せてくれるご愛犬に大満足され、目を細めておられるのでしょう。

 T氏のセターの持つ猟性は父が持っておりましたポインターも負けるものでは有りませんでしたが、垢が抜けていると言いますか、全てを凝縮された様な物でした。30分ほど犬と共に歩いて考えたのですが、使役犬としての猟犬の一生が例えば8年間ならば、その8年間の猟芸の良しも悪しきもこの30分で見てくれと私に問うている様な訴えを感じてしまいました。例えが叶いませんが偉大な人物の一生が一冊の本の中に詰っていると言うか、『遥か太古の猟人が今日まで、ひょっとして代々求めて来た犬が具現化して私の目の前に居るのではないだろうか』と思える様な感じで、ポカンと口を開けてただただ見ておりました。

 「どうえ?」と聞かれ「・・・」、「よう走るやろ!」「はァ・・」「何か感じるとこ有るか?」「・・・・」

ついぞ頭が混乱しておりましたので「セターでの猟は初めてですが、ポインターの様にやっぱりポイントするんですねー」すると「ポインターはポイントするが、セターはセットすると言うのや。ポインターと違ってエレガンスやろ」「はァ・・・」。
 ニヤニヤ笑いながらT氏は私に「こんな犬は欲しいか?」と聞かれました。「これがポインターやったら欲しいです」正直な気持ちを申しましたがこのT氏、まだニヤニヤしながら曰く「まあ犬を持つのは10年早いな、ワシが色々教えたろか?せやけどガラの悪いポインターよりセターの方が品がええで」「はァ・・」。1日中こんな調子です。

 あとになって知った事ですが以前にセターマンたるT氏は全国的な狩猟団体の全日本狩猟倶楽部が主催するトライアル(猟犬の競技会)でダービー部門(若犬と言いまして生後2歳6ヶ月までのもの)とオールエイジ部門(成犬で生後2歳6ヶ月を過ぎたもの)で共に全国優勝されておられる方でした。昔の話で私も知らない頃の話ですが【 インペリアル・パール・オブ・キョウト 】と言う名前で一世を風靡した米系英セター(英ポや英セとは英国のポインターや英国のセターの事ですが、すでに米国で血統改良されまして、これらを米系の英ポや米系の英セと呼んでおります)を引具し、その猟性を世に問うたのでした。その様なキャリアを持った人でしたから言われる事、なされる事が非常に重い説得力となって後々の私の犬や猟に対する姿勢の根幹を担ってしまいました(勿論、良きも悪しきもですが)。

 こんなT氏との初顔合わせの1日でしたが、何か今後の自分の狩猟と言うものに対する為の凄いカルチャーショックを受けた小生でした。勿論その日のコマンダーセターだけで無く、T氏に対してもですが、それよりももっと他にも有る筈なのですが、この日より30年を超えましてもそれが何かと聞かれましてもうまく表現出来ません。
ただの鉄砲撃ちと言う趣味にとどまらず、スポーツとして、昔からの先人が引き継いで来た文化として大切に考え、おいそれと狩猟をやっていてはいけない魂の様なものの欠片がその時の小生の心に宿った様な気が今となってはしますが、その人をして、その犬をしてまた守猟と言うものに対峙される姿勢に大きな感銘を受けたものでした。

 永遠のセターマンのT氏が亡くなられてすでに30年以上になりますが、未だにT氏のセターより感動を与えてくれますセターにはお目にかかっておりません。自主性や猟欲、気力には目を美晴る物が有る上にハンドラーの指示には従順です。この美しいセターはきっと神の手に依り生まれて来たのだと思い込んでも不思議の無い犬でした。笑われるかも知れませんが自分の目で見た者が言っておりますのでなにとぞご容赦下さい。

 しかし昔はその良い素質たるものを持って生まれた犬が現在より多かった様な気がします。今は犬に対するハンターの好みも変わり、爆発的な気力や火の出る様な猟欲を持った犬よりも従順さに重きを置いて訓練のしやすい柔らかい猟犬が主流になっております。昔のあの美しい、人をして感動せしめるスリリングなポインターやセターは一体何処へ行ってしまったのでしょうか。

 同病相憐れむと言いますが趣味の世界には中々通じるものが有りまして、車が趣味と言う方も大勢おられます。かく言う私も猟の次には車が好きですが、これまでにはサイフの関係で欲しい車を手に入れた事など有りませんが、コーリン・チャップマンのロータスセブンやキャロルシェルビーのコブラ427などは今でも心が躍ります。ダン・ガーニ―になってコークスクリューコーナーを攻めている夢などをよく見ますが、心は何時もデイトナコースです。この前に本を読んでおりますと、古いフェラーリを何台か所有されてる方が御話をされておられました。

 『この車は6年前に買ったものです。あれは12年前、そちらのは16年以上になります。常に乗ってはおりませんが車検も受けておりますし、また何時でも乗り出せます。買った時は高かったですがコンディションはよく有りませんでした。しかし今は最高のコンディションと自負しております。ガレージの広さの関係も有り。欲しいフェラーリを見つけるとその為に1台を手放すのです。購入した値段や整備の金額からははるかに安い売り物になってしまいます。しかしこの車たちは私のガレージに入庫した時点で私には親孝行を済ませております。何故と言うと喉から手が出るほど欲しい車でしたから、その車が手に入っただけで大満足なのです。あとは最高の状態に私がするのです。そしてまた古いフェラーリを手に入れて磨きをかけてやります。あまり乗らないので損だとか利殖にならないとか実用的でないなどとよく言われますが、私はこの車達のオーナーと言うだけでは無く、この車達のただの時の管理者なのです。昔に作られた銘車を何年から何年まで私が所有していた。勿論最高のコンディションにして、それをまた持続出来る方にお譲りする。その方がまた何十年も管理をして下さる。その様なもので後々に伝えて行かなければならないのです。たまさか私にはそれが出来るだけの余裕が有っただけの事です。決して乗って走り回るだけがフェラーリファンでは有りません。私のような者も間違い無くフェラーリのファンの一人なのです』

 言い得て妙で、中々奥が深いです。私のフェラーリと言われているのでは決してなく、みんなの為のフェラーリと言う所からご覧になって、後々の人の為に今を管理しておられます。

 私がT氏に貰った感動をこれから続く若い狩猟人に伝えていかなくてはと30有余年も考えておりますが、新人が目の前に現れて、T氏と同じ様に「どうや」と尋ねてやれる機会が私に与えられましたら、少々の恩返しをT氏に出来る様にと常に努力しております。ひょっとしてT氏は何かの伝道師で、感化を受けた私が死ぬまでにどなたかに伝えていかなくてはならないこと・・・。その荷物を私に投げられたのかと思う様な今日ですが、私自身がまだまだ修行の身で勉強不足です。

 大先輩たちが培って来られた日本の狩猟、その為に代々と良い所は残し、悪い所は改良を加えて素晴らしい良能を持つに至った鳥猟犬たち。私たちの代で力量が無く、バージョンアップこそ出来なくても時を引き継ぐ者の志として良い猟犬や狩猟環境を、ひとつのランクも下げず次代に残す様に努めなくてはT氏をはじめ、先輩たちに申し訳がない事です。

 猟場では犬を訓練しながら社会人として良い猟友たちと共に自分をも高めていく・・・、幾つになりましても私の猟はまだまだ旅の途中の様です。

 

 
 
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